さて続編です。
前回のエントリーではGroupon型サービスについての概略をご紹介したわけですが、ここではそれを踏まえて、飲食店を経営する者として感じるメリットとデメリット、そしてこのサービスの課題などを考えてみたいと思います。
【1】"負け犬向け"のサービスにならないのだろうか?
まず、このサービスを利用したいと思うお店はどういうお店なのでしょうか。
おそらく、連日お客様で満席になっているお店は、わざわざ使う必要はないと考えるでしょう。すでに毎日満席ならば、敢えて無茶な割引サービスで集客する必要はありません。
むしろ、とにかくどんな手段でもいいからお客様に来てもらいたいと思っているお店の方が、このサービスに魅力を感じるはずです。つまり、売上に困っているお店が利用するケースの方が圧倒的に多くなるのではと予想できます。(現時点では、繁盛店でも「どんなサービスか試しに使ってみよう」というテスト目的で利用したり、新しもの好きのお店が利用するところもあるでしょうから、全てが不振店だとは限りませんが)
つまり、いずれは「困っているお店のためのサービス」となる可能性が高いというわけですね。
怖いのは、そういうお店ばかりが利用するようになり「こういうサービスを提供してるお店って、イマイチなお店が多いんだよね」という評判が広まってしまうこと。そうなってしまったら、どんどんユーザーは離れていってしまうでしょう。もちろん、お店側も「ウチはイマイチなお店です」と宣言するようなことはしたくないわけで、サービスを利用しづらくなってしまいます。
【2】リピーター獲得に繫がるのだろうか?
今このサービスを知っていて、実際に利用している人はかなり情報感度の高い人たちのはずです。いわゆるアーリーアダプターやイノベーターと言われる層ですね。今、そういう人たちにお店を認知してもらうために利用するのは「アリ」でしょう。
そういう層は比較的可処分所得の高い人たちが多く、必ずしも割引だけに惹かれてクーポンを買うのではなく、「面白そうだから買って行ってみようぜ」と考えていることが多いので、そこでお店を気に入ってくれれば、クーポンがなくても再来店してくれる可能性も高まります。
しかし、このサービスの「目新しさ」が薄れて、より一般のユーザーが使うようになったとき、このサービスはまさに「バーゲンハンターのためのサービス」となる可能性が高くなってきます。バーゲンハンターとは、とにかくお店を安くするためにはどんな労力も惜しまない、そういう人たちです。
そんな人たちにとっては「割引クーポンがある」ことだけが唯一の来店動機です。割引きがあるからこそお店に行く。それは裏を返せば、割引クーポンがなければそのお店には行かないということですね。
つまり、安さだけにつられてお店に行く人たちが大量に押し寄せ、その来店は次に繫がらない事態になる可能性が出てくるわけです。
【3】看板は傷つけないのか?
マーケティング屋さんなら「ブランド」というところでしょうが、ブランドという言葉は誤解を生みやすいので、ここでは使いません。ここでは敢えて「看板」と言います。
これは上記の【1】とも関連する話なのですが、こういうサービスを利用することがお店の「看板」(信用や評判や店格など、そういうものだと思って下さい)を損なう可能性があることも理解しておかなければならないでしょう。
極端な例を挙げれば、高級料亭やグランメゾンがいきなりこの類のサービスを利用したら「えっ?」と思われることは間違いありません。「あの有名店も、売上が落ちて困ってるんだねぇ」と。カジュアルなお店ならいざ知らず、ある程度以上の価格帯のお店だったら、このサービスの利用には慎重であった方が良いと思います。
一方、サービスを運営している側としては「勝ち組レストランが使うサービス」にしたいと思っていますから、彼らはできるだけ人気店に参画してもらうべく、必死に営業しています。実際、「ミシュランの星を獲得したお店!」とか「食べログの人気店!」などという謳い文句も既にちらほら見受けられます。
現状では、これは飲食店側の思いとサービス運営側の思惑が食い違うところですので、そこをどう解決していくかには注目していきたいところではあります。
以前、表参道にエッグスンシングスが開店したときに発行したクーポンは、割引きではなく「並ばなくて済む」というクーポンだったそうです。そういうやり方も一つの手かもしれませんね。
【4】単に破格の割引きだけが売りなのか?
本家のGrouponも含めて、パッと見、この類のサービスの最大の魅力は「割引率」だと思われがちです。確かにそのインパクトは大きいのですが、しかしお店の側から考えると、本質はそこではないと思うのです。それに気づいていないサービス運営会社が多いんじゃないかな。
飲食店は一種の装置産業です。店舗を構えており、そこには有限のテーブルとイスがあります。飲食店は、そのテーブルとイスを超える数のお客様を迎えることはできません。50席しかないお店は、一度に50名のお客様しか受け入れられないのです。つまり、一日あたりの売上の上限が最初から決まっています。
このように、アップサイドに上限がある以上、実は飲食店にとって大切なのは「いかにダウンサイドのリスクを減らすか」になるわけです。これは言い換えれば「空席を減らす」ことが大切だということですね。空気を座らせておくくらいなら、割引きしてでもお客様に来てもらった方が良い。
そして実はGroupon型サービスはこの「空席を減らす」ことに絶大な威力があるわけでして、その辺のニーズにしっかりと応えることができたサービスが生き残っていくのではないでしょうか。
ただ、これを成功させるには、極めて大きな課題があります。
例えば、金曜日にGrouponを使って集客したいと思うお店は少ないでしょう。なぜなら、もともと金曜日はお客様の多い日で、半額をテコに集客しなくても、十分に席が埋まる可能性が高いからです。だからこそ、飲食店がGrouponに期待するのは、「集客の弱い日」にいかにお客様を集めてくれるか、になります。
そこで必要なのは「いつが暇な日なの?」という需要予測。そのお店が暇になるであろう日を正確に予測し、その日にピンポイントでクーポン集客をかけることです。これができれば、お店にとっては理想のサービスとなり得ます。
しかし、現在のGroupon型サービスはどれもその点を考慮していないように思えます。「二ヶ月間」など比較的長めの有効期限だけが設定されているだけですから、クーポンを買った人は繁忙日でも閑散日でも、期間内ならいつでも利用可能です。すると結果的に、せっかくのかき入れ時の「給料日の金曜日」なのに、客席はクーポンを握りしめたお客様で埋まってしまうという悲劇が生まれかねません。
【5】問題をどう解決していくか
ここまでは問題点を挙げてきましたが、それでもGroupon型のサービスは上手に使うと絶大な効果を発揮するのは間違いのないところです。従来のグルメサイトと比べたとき、その破壊力は絶大です。
だから、そのメリットを最大限に活かしつつ問題点を解決することが不可欠なのですが、ここでポイントになるのは以下の二つでしょう。
●正確な需要予測を行い、そのお店の「暇な日」に集客できるように設計する
●一過性の集客に終わらせず、「常連様」を増やす仕組みや仕掛けを用意する
これは私自身が以前から主張していることなのですが、従来のグルメサイトによる販促活動は、おしなべて「焼き畑農業」的な取り組みになりがちです。どのサービスも「新規顧客の獲得」にばかり目を向けていて、「いかにして常連様を増やしていくか」を真剣に考えているサービスは皆無と言っても過言ではありません。飲食店がグルメサイトにお金をかけてもかけてもなかなか結果が出ない状況は、「焼き畑農業」的なアプローチをしている限り続くでしょう。
そしてそれは、各社のGroupon型サービスでも全く同じことが言えます。どのサービスを見ても、どこもかしこも「新規顧客の獲得」を売りにしているようにしか思えません。しかし、その考え方のまま「人気の飲食店を獲得しよう!」とただひたすら営業を頑張っても、飲食店とお客様の双方がハッピーになれるサービスができあがるとは思えません。
私がGroupon型のサービスを提供するとしたら、まず「飲食店と運営会社が長く深くつきあう」ことを前提にしてサービスを組み立てるでしょう。長くつきあい、そのお店の強みと弱みを理解し、集客の強い日と弱い日を正確に把握し、その中でどのようにクーポンを設計したらよいかをしっかりプランニングする。また、新規顧客向けのクーポンだけでなく、常連さんだけを対象にしたクーポンを売ることがあっても良いでしょう。その辺をバランス良く混ぜたクーポンのプランニングも大切です。
あるいは、新規顧客向けクーポンで来店された方を、どのように次の来店に結びつけていくかという、店内での仕掛けも大切になります。そこをしっかりと作り込めず、単に「クーポンで集客しまっせ!」というだけのサービスでは一過性の集客にしかなりません。だからこそ、飲食店としっかりつきあうことで、現場での取り組みと連動させたクーポンを設計することが必要だと思うのです。
確かに米国ではGrouponが大成功していますが、そもそも飲食業界の成熟度やクーポン文化の浸透度は米国と日本では全く異なります。単に米国で成功しているからといってそれを安易に模倣したクーポンサービスを提供しても、日本ではなかなか成功しづらいのではないかというのが僕の考えです。これは裏を返せば、比較的クーポン文化の確立していない飲食以外の分野だったら、日本でも十分に勝算ありということでもあります。(間違ってたらごめんなさい)
【6】豚組の事例
このGroupon的な取り組みを成功していく上で、一つ参考になりそうな事例をご紹介しておきます。
先日、ワールドカップの日本×パラグアイ戦の当日、豚組しゃぶ庵でいきなり当日夕方に個室4部屋がキャンセルになったのです。まあ皆さん盛り上がってましたからキャンセルも致し方ないとはいえ、当日の夕方のキャンセルはきつい。
今までだったら「仕方ない」とあきらめざるを得ないシチュエーションですが、しかし今回は違いました。それはツイッターのおかげ。私が軽い気持ちでツイッターに書き込んだことで、驚くようなことが起きたのです。
一言目はこれ。まだ愚痴にすぎません。
「ちょっとショック。今日さっき、個室の予約が4部屋キャンセルになったそうです。ワールドカップの影響の模様。なんとも・・・」
http://twitter.com/hitoshi/status/17316485533
二言目に、半ば破れかぶれでこんなことを書いてみました。
「さすがにこのキャンセルは悔しいから、今日来店してくれる人がいたら、もう、半額に値引きしてもいい。誰かいる?」
http://twitter.com/hitoshi/status/17316629398
これが思った以上の反響となりました。
あっという間にリプライとRTが続き、45分後にはキャンセルになった4テーブルが全部埋まっただけでなく、お断りも数組発生することになったのです。これに一番驚いたのは僕自身。まさかこんなことになるとは。油断して取引先と商談をしてたのですが、その途中で何気なくTLを見たら大反響になっていて、もう驚くのなんの・・・
その時の模様はtogetterにまとめてありますので、詳しくはこちらをご覧下さい。http://togetter.com/li/32574
で、この一連の動きをあとになって改めて考えてみたのですが、これって、メディアこそツイッターでしたが、内容はまさにGroupon的な展開ですよね。日本×ウルグアイ戦の当日に、いきなり予約なしでお客様が何組も来てくれるなんて、今までだったらあり得なかったことです。しかしそれをほんの45分で全部埋めてしまった。驚き以外の何ものでもありません。
どうしてこんな事が可能になったか。それはこういうことではないでしょうか。
つまり、Groupon的な取り組みで結果を出すためにも、日頃からのお客様との信頼関係が不可欠だということです。あくまでも普段の信頼関係があるからこそ、そして豚組が一定の評価を頂いていたからこそ、「半額」というメッセージが力を持った。さらに、日頃の信頼関係があったからこそ、それをRTでクチコミしてくれる方々もたくさんいた。
それがないところにいきなり「今日は半額だよ!」と言っても、おそらくこれほどの結果は出なかったのではないでしょうか。
【まとめ】
Groupon的な取り組みって結果の出方がすごく派手なので、そこだけを手っ取り早くやりたいというお店が現れるのは仕方のないことなのでしょうが、私としては「インスタント」なやり方はあまり良策ではないと思うのです。
やはり大切なのは、お客様との関係性づくりを前提とした取り組み。たとえGroupon的なことをやりたいと思っても、それで本当に結果を出すためには、ある程度の期間は必要でしょう。一朝一夕、単に「クーポン一発で集客!」では難しいのではないでしょうかね。
長い目で飲食店とつきあって、そのお店にあったクーポン設計や店内での仕掛けなどまで提案してくれるようなサービスがあれば、僕は是非使ってみたいと思っています。でも、それって、運営側からしたらかなりの労力やノウハウが必要になるから、そう簡単にはできないんだろうなあ。(こうして焼き畑農業は続いていく)
